Make haste slowly. 矛盾語法(oxymoron)風味の諺

女の tomboy は矛盾、諺(ことわざ)の Make haste slowly. は oxymoron(矛盾語法)。

English sayings speak volumes about English.
英語の諺(ことわざ)は英語を大いに語る

Make haste slowly.
(ゆっくり急げ)

Making haste is no excuse for making mistakes. When time is short, you should be able to make short work of whatever you have to hurry to handle. Pressed for time, however, you usually feel sort of oppressed; oppressed, you are prone to err. To get things done quickly, but with no mistakes, you need to make haste slowly. Go fast, but not rush.
(急いでいるから間違ってもしかたないというわけにはいきませんね。時間がないときは、急務をてきぱき片づけられないといけません。されど時間に窮すれば精神的にもいささか窮するもの、精神が窮すれば誤りを犯しやすいもの。急いで、しかし誤らずに事を処するためには、ゆっくり急ぐ必要がありますね。急げ、でも、あわてるな。)

「ゆっくり急げ」とは「落ち着いて急げ」の意――ですが以下2文を比べると、諺はひと味違いますね。a. には「おもしろ味」というスパイスが加味されています。

  1. Make haste slowly.
  2. Make haste calmly.

このピリッと利かせる表現のスパイスは oxymoron矛盾語法――そのよく知られた例は an open secret(公然の秘密)、意味的に衝突する語句を組み合わせてインパクトのある表現を作る手法、例えばびっこの人にそれと知らず「足をくじいたんですか」と訊ねる親切心は cruel kindness(残酷な思いやり)。

  1. Digging in deeper could end up with increasingly joyless discoveries.
  2. Digging in deeper could end up with less joyful discoveries.

「さらに踏み込んで調査すればますます喜べない発見をするはめになりかねない」の「ますます喜べない」を increasingly の increase「増大」と joyless の less「減少」を突き合わせるのは矛盾語法、遠回しに less joyful と表現するのは婉曲語法――あなたならどちらの表現を買いますか、表現テクニックにも個性が反映しますね。

熱帯があれば寒帯があり、白人がいれば黒人がいる我らの地球の温暖化で干ばつになるところもあれば洪水になるところもある―― pairs of opposites(正反対の組合せ)と仲よく付き合っていくしかない我ら人の生も矛盾を内包するもの、とすれば矛盾語法もなかなか奥の深いものかもしれません。私が推進する英語習熟法――TMシステム(The Thorough Mastering System)――のスローガンも「矛盾」と無縁ではありません。

  • Practically profound & Profoundly Practical
    (実際的に深く、深く実際的)

practical(実際的)とprofound(深遠な)は反意語ではありませんが the practical applications of the profound theory(その深遠な理論の実用)で the profound applications of the practical theory が変である程度には相反する概念です。ですが変形(transformation:意味が変わらず形態がかわること)という文法の深い仕組を表現活性化のテクニックとして実際的に駆使する英語なる言語のスピリットはまさに Practically Profound & Profoundly Practical と洞察、この英語のスピリットを具現顕現するTMのスローガンにしたという次第。矛盾語法は高い表現効果が期待できますが、ものがものだけにへたをすると oxymoron にならず、書き手が moron(まぬけ)に見えるだけ。

[問1]
以下の文を矛盾語法で活性化しなさい。
  1. The growth of your English ability diminishes the amount of time set aside for your English work.

実力が伸びれば同じ時間でより多くの学習ができるようになるということは、「英語力が向上することで英語の学習時間が減少する」ことになりますね。

[答]

  1. The growth of your English ability raises the diminishing amount of time set aside for your English work.

diminish the amount(量を減らす)に「矛盾」を含ませると raise と diminishing が衝突する raise the diminishing amount(減少量を上げる)、f. には e. にないひと味違う「おもしろ味」がありますね。

make haste slowly. のもうひとつの「技」は「音」―― make [meik] 、haste [heist] と同じ二重母音 [ei] で音を揃えれば、slowly の二重母音 [ou] とも調子が合い、全体の音調はすこぶる良好。

さて矛盾語法ならぬ矛盾語をひとつ想起してみましょう。それは tomboy、tom は「雄の」の意味で tomcat は「雄猫」、boy はオスにきまっていますからtomboy はわざと同義語を重ねる冗言法(pleonasm)で he-man(男らしい男)を小さくした腕白な「男らしい男の子」かと思いきや、実はメスで「おてんば娘」――矛盾語法で「おてんば娘」を造語すればオスとメスをかけ合わせた tomgirl となるところ、そこを矛盾語法でも飽き足らず冗言法を逆手に取った tomboy、あちらにも天の邪鬼と天の邪鬼ファンがわんさかいらっしゃるようですね。もうひとつ矛盾を感じてしまう語は spendthrift、thrift は「倹約」だから spendthrift なる人物は「しまり屋」か「けちん坊」と思ってしまいますが、その反対で「金づかいの荒い人」。antihero は矛盾を内包するおつな語、「antiheroはヒーローであるがヒーローでない」は self-contradiction(自己矛盾)、antihero とは英雄的資質を欠く平凡な主人公、「アンチヒーローは hero(主人公)ではあるが hero(英雄)でない」と言うこと。

淑女もいればおてんば娘もいる、けちん坊もいれば金づかいの荒い人もいる、ヒーローならぬその他大勢も己が人生のアンチヒーロー、色んな人がいっしょに暮らしているこの世は矛盾のお花畑。

Make haste slowly. のほかにも oxymoron 風味の諺は、有名なスローガン Work hard, play hard.(うんと働き、うんと遊べ)のオリジナル。

  1. All work and no play makes Jack a dull boy.
    (ことわざ: よく学び、よく遊べ。)

直訳すると「勉強ばかりで遊ばないと男の子は a dull boy になる」、a dull boy の意味は2つ、

  • dull は mentally slow(頭が鈍い):「のみ込みの悪い子」
  • dull は listless(活気のない):「ぼ~っとした子」

頭の働きが悪いのは頭をよく働かせないから、勉強で頭をうんと使えば bright(頭のいい)になるというのが常識、この常識を逆手に取った all work と dull の組み合わせは矛盾語法――一般にこの諺の a dull boy は「退屈な子」や「おもしろくない子」や「だめな子」になっていますが、「頭が鈍い」の dull が隠し味になっている oxymoron 風味がこの諺の醍醐味。勉強ばかりで遊ばないのはガリ勉(a grind、a closet grind)、そこでひとつこの諺で遊んでみましょう。英文だけでなく和訳もお遊びですよ。

  1. All work and no play makes Jack not just a grind but a dumbbell as well.
    (勉強ばかりで遊ばないとガリ勉になるだけでなくダンベルになる。)

not only...but also...(…のみならず…)を not just...but...as well に変形すると Jack と just の語頭「j-」、文頭 All と文末 well の「-ll」が呼応、dumbbell と well は脚韻、なんて真面目くさった文字面で当たり前のこと(勉強ばかりで遊ばないのはガリ勉)を言ってから、a dull boy より重度の a dumbbell ――ボディビル用具の「ダンベル」ですが米口語で「まぬけ」、ダンベルに「鈍重」のイメージを重ねるユーモアのセンス。

この諺の主語 All work and no play も、そこだけを見ると「矛盾」、と言うのも肯定文の i. と否定文の j. を一文仕立てで k. とすると文法にたて突くことになりますから。

  1. All the nurses took part in the strike.
    (看護士全員がストに参加した。)
  2. No doctors took part in the strike.
    (医師はストに加わらなかった。)
  3. *All the nurses and no doctors took part in the strike.

主語が All the nurses and no doctors、「肯定文」兼「否定文」、こんな矛盾した文法兼任の無責任を文法は認めません。

[問2]
i. と j .を一文化した l. となるよう、空所に適語を1語ずつ補いなさい。
  1. All the nurses took part in the strike, but(   )(   )(   ).

空所3語の入れ方は2通り、こんな文法兼有は英文法の大いに認めるところ、l2. は l1. より表現レベルが上。

  • l1. All the nurses took part in the strike, but no doctors did.
  • l2. All the nurses took part in the strike, but not the doctors.

諺の all work and no play は動詞 make の三·単·現 makes で受けていますから、この and は A and B(AとB)で1つ、一体を示す味な and ―― bread and butter(バターつきのパン)、ham and eggs(ハムエッグ)、curry and rice(カレーライス)と料理名にこの and 味が好んで使われていますね。以下の3文を比較すると、平凡な面(つら)の and にも表情(表現力)があることがわかるでしょう。with no play は without any play の強意表現。

  1. All work and no play makes Jack a dull boy.
  2. All work with no play makes Jack a dull boy.
  3. All work without any play makes Jack a dull boy.

勝ちは勝ちで、負けるが勝ちなら、人生はいつでも win-win situation。

  1. To lose is to win.
    (ことわざ: 負けるが勝ち。)

to lose = to win、こんな矛盾に満ちた等式でも成立しかねない人生に負けなければ勝ち。

  1. Not to lose is to win.
    (負けなければ勝ち。)

矛盾語法に照らすと vivid(鮮やかな)でも、現実の光では livid(鉛色)である living corpse(生ける屍)が、

  1. Not to die is to live.
    (死なないことが生きること)

とうそぶけば背筋が寒くなりますね。

イギリス作家で詩人 D.H.ロレンスの swan song(絶筆)は白鳥のもの悲しい歌ではなく、一羽の闘鶏が生命の雄叫びを上げる『The Escaped Cock』、死にゆくロレンスが選んだ主人公は復活後のイエス――そこに矛盾語法が生彩を放つ次の一文が見つかります。

They came trotting across the shingle, heedless and intent on their way ... (砂利浜を、小走りに脇目も振らずひたすらやってくる…)

heedless(不注意な) and intent(専心の)――周囲のことは気にもとまらないほど一途に進んでいく様を髣髴させる heedless と intent の鮮明なコントラストは矛盾語法。

明日をも知れぬロレンスが絶筆となる作品の結びの一文に選んだのはひとつの諺、何だと思いますか。それは、

  1. Tomorrow is another day.
    (ことわざ:明日は明日の風が吹く。)

原文ではロレンスのイエスの独り言。

‘So let the boat carry me. Tomorrow is another day.’ (だからこの小舟に身を任せどこなりと流れていくまでよ。明日は明日の風が吹く。)

死にゆく人がその際に Tomorrow is another day. と言えば、あなたはそこに矛盾を感じますか。それとも希望を見ますか。

日本語の「明日は明日の風が吹く」はちょっぴり捨てばち気分、ですが英語の Tomorrow is another day. は「明日は新たな発展の気と機をもたらす」の意で積極ムード。

  1. Today is today; tomorrow is tomorrow.
    (今日は今日、明日は明日。)

Tomorrow is another day. で終わる another novelは? 言わずと知れた『風と共に去りぬ』、ヒロイン Scarlett O'hara の After all, tomorrow is another day. ――やっぱり「だって明日は明日の風が吹くんだから」と「風」と共で訳したくなりますね。

ロレンスが他界したのは1930年、Margaret Mitchell が Gone with the Wind を発表したのは1936年、ミッチェルは The Escaped Cock を読んでいたのでしょうか。もし読んでいたら、tomorrow is another day で小説を締め括ることに二の足を踏んでいたと思いますね。

今日は逆風でも明日は追い風かも、ですが今を生きるから明日がある。

Today is not just tomorrow's yesterday. 今日はただたんに明日の昨日ではない。

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どだい、土台が違う

木造平屋建ての土台でビルは建てられない。3階ビルの土台に30階高層ビルは建たない。英語ができるといっても、いわば平屋の英語力と、いわば高層ビルの英語力の違いがある。

どこまで英語力を伸ばせるか。
どこまで実力が積み上がるか、
それは、土台で決まる。

世に、ネイティブ級ライティング力の超高層英語力を
現実に実現できる英語教育は、TMシステムあるのみ。

TMシステム
(The Thorough Mastering System)
英語の文法と技法の全容を実際的に深く、
深く実際的に教えきる初の英語習熟教育。

重たい英語学習を避けるなら、
どこまでも、どこまでも、どこまでも
軽い英語力でいくしかない。
深い英語学習を避けるなら、
いつまでも、いつまでも、いつまでも
理解の大不足のままでいるしかない。