英語のライティング、ライティングで英語ライティング力とは、技法抜きの、いわゆる「英作」の作文力のことではない

文法プラス技法のことば英語のライティングとは? 本物のライティング力とは? ここに、手軽な、しかし本格的なライティング学習がある。

ライティング学習はプロ英語教育の領域

すでにあるレベルのライティング力を持つ英語のネイティブにライティングを教えることと、ノンネイティブに英語のライティングを教えることとは、実際上、全く違うことであり、後者は前者より限りなく困難なことです。

この困難に挑んだ英語教育は、世界的にも、歴史的にも、TMシステムが初めてのことです。

大学にもライティングと名のつく講座はあり、ネイティブの先生が担当しますが、「ライティング講座」で少しでもライティング力がつくのかというと、全くつかないのが実状です。

私たちノンネイティブの英語学習者は、まず第一に、英語のライティングというものがどういうものなのか、どういうレベルの英語なのかが全くわかっていないわけです。

ですから、ライティング学習の第一歩は、「これが英語のライティングというものである」を実体験し、実感し、理解することです。ノンネイティブの学習者に英語のライティングを実体験させ、実感させ、理解させるためには非常に高度な英語学習が必要となり、この非常に高度な英語学習を提供できるのがプロ、ということになります。

[問1]
以下の英文中で注目すべき1語は何か。

One Black woman—historic, dope, progressive, passionate and competent though she is—is not a sufficient salve for the festering wounds of American racism and sexism.

出典:TIME 2020年11月23日号 p.32

この1センテンスから「英語のライティング、ライティングで英語」を起こすことには、それなりの理由があります。

と言うのも、この1センテンスの英文の解説だけでも英文ライティングを実感でき、「ライティング学習はプロ英語教育の領域」という理を解していただけるからです。

問1の解答は後に回し、問2に進みます。

[問2]
主節は原文(One Black woman is not a sufficient salve for the festering wounds of American racism and sexism)通り、従属節(though節)の造りも構成する単語(9語)も原文と全く同じという条件で、原文のバリエーションとしていくつのセンテンスができるのか?

筆者はTMシステムで「though型強調構文」と呼ぶ変形技法を使っています。変形(transformation)とは意味が変わらず形態が変わることであり、その変形は以下になります。

  1. —though she is historic, dope, progressive, passionate and competent—is
  2. —historic, dope, progressive, passionate and competent though she is— (原文)

though型強調構文は though節の補語を接続詞 though の前に移動する大胆な変形手法であり、当然ながら、接続詞の前に位置する補語、原文では5つの形容詞(historic、dope、progressive、passionate、competent)が目立つ、つまり強調されます。

though節の(sentence)の位置は文頭あるいは文末ですが、though型強調構文の定位は文頭、ふつうなら c.文です。

  1. Historic, dope, progressive, passionate and competent though she is, one Black woman is not a sufficient salve for the festering wounds of American racism and sexism.

though節を軽く挿入語句的に文・中に配置することは可能ですが、その場合は though節は軽い、つまり、短いという条件がつき、原文のように重たい(長い)though節は不向――仮に、形容詞が1つ、2つだったら、d.文の she is 省略で d. → e. の展開、さらに though を後ろに置いた(この場合、though は文法上は副詞、技法上は接続詞 though の後置移動)e. → f. の展開も可能です。

  1. One Black woman, though she is historic and dope, is not a sufficient salve for the festering wounds of American racism and sexism.
  2. One Black woman, though historic and dope, is not a sufficient salve for the festering wounds of American racism and sexism.
  3. One Black woman, historic and dope though, is not a sufficient salve for the festering wounds of American racism and sexism.

便宜上、5つの形容詞を A、B、C、D、E と表記します。

原文の5つの形容詞の配列は A、B、C、D and E ――ですが、形容詞5語を並べる語順は120通り(5×4×3×2×1=120)あるわけです。

ちょっと確認しておきますよ。

5つの形容詞を並べた場合、最初にくる形容詞は A、B、C、D、E の5通りです。

A の次にくる形容詞は B、C、D、E の4通りで、A,B、A,C、A,D、A,E の4つの組み合わせになります。

B の次にくる形容詞は C、D、E で、C の次にくる形容詞は B、D、E で、同様に D の次は B、C、E で、E の次は B、C、D、よって、A,B,C、A,B,D、A,B,E、A,C,B、A,C,D、A,C,E、A,D,B、A,D,C、A,D,E、A,E,B、A,E,C、A,E,D 計12通りの組合せになります。

形容詞3つの12組に続く形容詞4つの組は、以下の24通りです。

最初の4つが決まれば残る1つは自動的に決まりますから、形容詞が5つになっても組み合せの数は同じ24通りです。

例えば、先頭AのA組24配列のしんがりは、

A,E,D,C and B:
historic, competent, passionate, progressive, and dope

先頭AのA組24通り、先頭BのB組24通り、同様にC組、D組、E組も24通りで形容詞5つの語順は計120通りになります。

though型強調構文の配置は、通常の文頭(c.文)と主語 One Black woman と動詞 is の間に押し込んだ原文の2通り――そうすると、主節は原文通り、従属節の造りは though型強調構文、構成する9単語も原文と同じという条件で、ここまで表現が決まっているのに、原文のバリエーションは2×120=240通りとなります。

ですから、筆者は文の造りも構成する単語も決まっている、ほとんど出来上がった1センテンスの英文を最終的に完成するのに240分の1の選択をしたことになります。

ですから、これが英語のライティング、ライティングの英語ということになります。私たちの「英作」とは、英文のレベル、英語の質が全然、まるっきり違うのです。

240の選択肢に至る前段階で筆者がやらねばならなかった選択は、though型強調構文を使うべきか使わざるべきか、以下8つの選択肢(便宜上、5つの形容詞の語順は原文でいきます)。

  1. Even though she is historic, dope, progressive, passionate and competent,
  2. Historic, dope, progressive, passionate and competent though she is,
  3. Historic, dope, progressive, passionate and competent as she is,
  4. As historic, dope, progressive, passionate and competent as she is,
  5. However historic, dope, progressive, passionate and competent she is,
  6. However historic, dope, progressive, passionate and competent,
  7. No matter how historic, dope, progressive, passionate and competent she is,
  8. No matter how historic, dope, progressive, passionate and competent,

though を強めた even though(as though と as if は同義だが、even though には even if の「仮定」の意味はない)、though を重たくした although には though型強調構文式の強調構文はありませんので、まずは even though か though型強調構文の選択――と言うより、強調構文を活用するかしないかの選択。

強調構文でいくとしても、though型強調構文かTMシステムで「as型強調構文」と呼ぶ「補語 + as + 主語 + 動詞」か、それともTMシステムで「強調as型強調構文」と呼ぶ「as + 補語 + as + 主語 + 動詞」の三者択一。

しかし、変形を活用した構文レベルの強調展開ではなく、意味を強め「···だが」→「どれほど···でも」といくなら however、however より強意の no matter how、さらに、主語と be動詞を省略し補語をさらに強調する k.→ l.、m.→ n.の変形展開で四者択一。

そうすると、筆者は複文(complex sentence)1センテンスの従属節だけで原文に到達するのに 8+240=248 の選択をしたことになります。表現のバリエーションは 7×120+2(though節文頭、文・中)×120=1080通り。

[問3]
筆者は8つの従属節の中から though型強調構文を選択しただけでなく、主節の主語と動詞の間に挟み込むという強引な行き方をした理由は?。

– 続く –

英語のライティング 学習&教育の起点:ライティング力の7要素

Here's the very best way to start, if you
really want to develop your writing skills.

個々人の文法力に格差はあるが、
英文法に初級も中級もないように、
ライティングに初級も中級もなし。
英文ライティングは文法プラス技法
和文英訳レベルの英作と本質が違う。
ライティングはネイティブ級あるのみ。

ライティングという領域は未知の領域です。ライティングは、「和文英訳」的な、いわゆる「英作」とは英文の量が違う以上に英文の質が違います。「英作」レベルの英語を1000文連ねても、英語のライティングになっていません。「英作」レベルの1000文をネイティブに添削してもらっても、ライティング力はつきません。ライティングは「英作」と本質的に違うのです。

この違いを一言すれば、「力」が全く違うということ。

ライティング力の7要素:
文法力(高度な文法力)
技法応用力
表現感覚
構造感覚
文法感覚
文法 & 技法レベルの句読運用力
語彙 & イディオム力
「英作」力の3要素:
文法力
文法レベルの句読運用力
語彙 & イディオム力

文法力とは生得の言語能力を英語の文法ルール·体系の中で発現発揮させる能力ですが、特にライティングでは必要に応じ、必要なだけ複雑な文構造をきちんと組み立てることができるだけの文法力が必要になります。また、個々の文法の仕組をマスターしている必要があります。

技法応用力とは表現効果を高めるために個々の技法を活用できる能力と、技法それ自体を応用展開できる能力です。

表現感覚とは表現の表情を感じとり、読みとる能力であり、構造感覚とは表現の重い·軽いの重量感覚、簡潔·冗長の締り感覚、語句の釣り合いや配列のバランス感覚、文体裁を整える構成感覚のことです。

文法界は白と黒(非文法)で割り切っても、ライティングの領域は白と灰色と黒の3色で文法を把握することになります。黒と灰色を識別し、灰色の持ち味を正しく評価できる能力が文法感覚です。

ライティング力の7要素を発揮して英文を作成するのがライティング――ライティングの英文と「英作」の英文は同じ英文でもscreamingly different、まるで違うのです。

要するに、英語が母国語であれ外国語であれ、ライティングの領域はネイティブの領域であり、ネイティブ級のライティングのみがライティングであるわけです。

TOEICで900以上出す、英検1級を取る、という目標は、TOEIC500点台の方も英検3級の方も立てることができますが、しかし、TOEIC900以上の方も英検1級の方も、本物のライティング力を持つという目標を立てることはできません。

なんとなれば、これまでは、このライティング目標を達成できる方法がなかったし、この目標に向かうライティング学習の起点も確立していなかったし、起点から目標に至る行程を支える英語学習も存在しなかったからです。

世界的にも、英語のライティング力を7要素に分析したのはTMシステムが初めてであり、「文法プラス技法」の英語教育を確立したのも、「変形(英文法の中核)プラス変形テクニック(英技法の中核)」の英語学習で高度な文法力と高度な技法運用力を持つことを可能にしたのもTMシステムが初めてであります。

例えば、TMシステムで「英語の3感覚」と呼ぶ表現感覚、構造感覚、文法感覚がないと、英文のうまいへたがわかりませんし、ライティングの優劣は、畢竟、この3感覚の優劣にかかっているといっても過言ではありません。

英語の3感覚:表現感覚、構造感覚、文法感覚

[問1]
以下のパラグラフの中で、最もアピール力があるのはどのセンテンスか?

My mother is a black woman, Xhosa woman, from South Africa. My father is Swiss from Switzerland and a white man. They got together during apartheid, which was against the law, and they had me. That's really where our journey began. We were a family that couldn't be together. We were a family that was, for all intents and purposes, a crime. Me being born from my mother was me being born a crime.

出典:TIME 2018年1月15日号 p.23

– 続く –

英語の超現象:技巧の文法超越

英語ライティング 問 dark の最上級は常にdarkestか?

common に2つの最上級commonest と most common があるという意味で darkに*most dark もあるのか、という文法レベルのあほ臭い問ではありませんよ。技法レベルで、この問に答えられないのならライティング力はまだ青臭い、英語のライティングがわかっている、わかっていない、白か dark かという問なのです。

[小問1]
以下の文を英訳しなさい。

それはこれまで読んだ中で最も洞察に満ちた、最も怪奇で最も暗い小説だ。

以下3つの英訳文、あなたはどう評価しますか?

  1. It's the most insightful, most mysterious and darkest novel that I've ever read.
  2. It's the most insightful, mysterious and darkest novel that I've ever read.
  3. It's the most insightful, mysterious and dark novel that I've ever read.
[小問2]
3文中1つは非文法、a.か b.か c.か?

文法に暗いのは dark で最上級 darkest でない c.、と技法に暗い人は思うでしょうが、私の評価は以下。

非っ、非っ、非っ、と無気味な笑い声に聞こえるのは、文法にも技法にも dark だからですよ。実際、文法に暗い、技法はまっ暗のライティングなんてものは気味の悪いもの。

まずは文法からいきましょう。

  1. the most insightful, most mysterious and most compelling novel I've ever read.
    (これまでに読んだ中でもっとも洞察に満ちた、最高に怪奇でなにがなんでも読まずにはいられなくなる小説)
  2. *the most insightful, most mysterious and compelling novel I've ever read
  3. *the most insightful, mysterious and most compelling novel I've ever read
  4. the most insightful, mysterious and compelling novel I've ever read

A, B and C の等位関係にある3つの形容詞に最上級の most を冠する場合、

most を A と B、あるいは A と C に付け、most を1つ節約は簡潔ではなく欠陥――統一性を欠く中途半端は非文法。

3つの最上級が most insightful、most mysterious、しかし darkest の場合はどうなるのか。ライティングの自然環境ではなく、文法論理の人工環境では以下4組(dark と mysterious は dark と insightful より意味的に親密な点を考慮し、dark と mysterious は隣同し)。

  1. the most insightful, most mysterious and darkest novel I've ever read
  2. the most insightful, darkest and most mysterious novel I've ever read
  3. the most mysterious, darkest and most insightful novel I've ever read
  4. the darkest, most mysterious and most insightful novel I've ever read

h.、i.、j. は英語であるも Englishless、k. はEnglish-ish――unEnglish(英語であらず)、Englishless(英語らしくない)、English-ish(英語っぽい)、Englishful(これぞ英語)、ノンネイティブのライティング指導の一助として以上4つの English の派生語があってもよいのではと私は冗談っぽく思うのですが、いかがなものでしょうか。なにしろライティングの大問題は、

To be like English or not to be like it, that is the question.ではEnglishless、英語は「文法プラス技法のことば」ですから。

先頭 darkest の k. の英語らしさは技法レベルで意図的な強調表現と評価できること。

[小問3]
強調効果が高まるよう手を入れなさい。

「手」と言っても、小指の先で済む fine-tuning(微調整)ですよ。

  1. the darkest, most mysterious and most insightful novel I've ever read
  2. the darkest, most mysterious, and most insightful novel I've ever read

k. と l. の違いはコンマ1つ、most mysterious の後にコンマを打つと、まず ,most mysterious, が際立ち、次に , and most insightful も引き立ち、そこにそも先頭で目立つ語尾「-est」の darkest、これでそも自己主張の強い最上級形容詞3つがさらに強まる――これはコンマなる小石を水溜りに落とした a ripple effect(波及効果)。

大学でも習わない英語の句読法(punctuation)を漠然と日本語の句読法に重ねてイメージしがちですが、英語の句読法は文法プラス技法で展開する、ぐんと応用の幅も奥もあるライティングの本領域ですよ。

英語は語順をとても気にすることば―― most を冠した2つの最上級形容詞を連ねて体裁を整えるのが英語らしい語順、英語の正常、ライティングの常識、ですから most insightful と most mysterious の間に darkest が割り込んだ i.、j. は、

  1. the most insightful, darkest and most mysterious novel I've ever read
  2. the most mysterious, darkest and most insightful novel I've ever read

いささか mysterious、ネイティブは書き手の頭を疑うかも――こいつは insightful でなく insane かも、dark でなく、ただの dork(間抜け)かも。

Too many deer, wild pigs, raccoons and beavers can be almost as bad for the animals as too few.
(シカ、イノシシ、アライグマ、ビーバーが多過ぎるのは、その動物たちにとって少な過ぎるのと同程度に不利になりかねない。)

出典:TIME 2013年12月9日号 p.37

もしあなたが、too manyが1つでは心もとないと思って wild pigs にも too many を冠すると、

  1. *Too many deer, too many wild pigs, raccoons and beavers can be almost as bad for the animals as too few.

最初だけでなく最後も too many の方がわかりやすいのではと親切心で beavers にも too many を冠すると、

  1. *Too many deer, wild pigs, raccoons and too many beavers can be almost as bad for the animals as too few.

非文法のしっぺい返しをくうことになりますよ。too many を1つ足すのは文法土俵の勇み足、足すなら3つプラスで、

  1. Too many deer, too many wild pigs, too many raccoons and too many beavers can be almost as bad for the animals as too few.

too many が too many でやりきれない表現になりますね。

dark の最上級は常に darkestか? ― この問の意味がわかってきましたか。

dark の最上級は常に darkestか? ― この問の意義がわかるでしょうか。

dark の最上級は常に darkestか? ― この問の真義がわかるでしょうか。

  1. the most insightful, most mysterious and darkest novel I've ever read
  2. the most insightful, mysterious and dark novel I've ever read

h. と p. の違いは文法レベルの英語と技法レベルの英語の違い、h. と p. の違いはノンネイティブの英語とネイティブの英語の違い――ですから英語は「文法プラス技法のことば」なのです。p. の dark は p. の mysterious と同じ最上級、つまり mysterious = most mysterious と同じく dark = most dark、つまり most 省略で most mysterious → mysterious、同様に most 省略で most dark → dark なのです。*most dark 自体は非文法ですから、p. の最上級(most) dark は「技法の文法超越」ということになります。

「dark の最上級は常に darkest ではない」のが英語の自然界、そこは「技法の文法超越」という超自然現象も内包する大自然なのです。

[小問4]
「技法の文法超越」の一例を示しなさい。

と問われて、「そんなもの知ってるわけが・・・」実はあるのです。

[小問5]
どれがリンカンのオリジナル?
  1. government of the people, by the people and for the people
  2. government of the people, by the people, and for the people
  3. government of the people, by the people, for the people

かの有名な「人民の、人民による、人民のための政治」がかの有名な government of the people, by the people, for the people で q. や r. でないことはご存知の筈――あなたが知らなかったのは、あなたが知らなかった「技法の文法超越」の一例であること。

[小問6]
以下の2文を和訳しなさい。
  1. She drinks sake, wine and beer.
  2. She drinks sake, wine, beer.

t. は「彼女は日本酒とワインとビールを飲む」で、u. は「彼女は日本酒、ワイン、ビールなどを飲む」で u. は v. の意味。

  1. She drinks sake, wine, beer and so on.

これが文法レベルで「A, B and C」と「A, B, C」の違い―― u. の彼女は whisky でも vodka(ウオッカ)でもあおる酒飲みかもしれませんが、リンカンの「A(of the people), B(by the people), C(for the people)」は3っつきり、他に from the people や with the people などなどという意味ではないのです。

等位関係にある3語句 A、B、C を and で結ぶ場合は以下の2通り。

以下2 つは非文法。

ですから of the people, by the people, for the people は非文法――非文法が非常に素晴らしい表現になるのは、ですから「技法の文法超越」。

等位接続詞のつなぎ手を使わない「空手」の妙技を並列(parataxis: government of the people, by the people, for the peopleもその一例)と呼びますが、プロのライティングでは並列を決め技として使うことも珍しくありません。

[小問7]
以下は英語の自然界の一区画、並列はどこ?

Meanwhile, the damage done by booming wildlife populations is substantial. Some 200 Americans die each year in more than 1.2 million vehicle collisions with wandering deer—wrecks that cause damage resulting in more than $4 billion in repairs, according to the Insurance Information Institute. One recent Tuesday morning in western Michigan, a motorcyclist named Theobald “Buzz” Metzger, 55, struck a deer in the suburbs of Kalamazoo. The force of the collision sent him flying from his bike. Moments later, 78-year-old motorist Edmund Janke happened on the scene. Startled by the sight of a body in the road, he swerved, lost control of his car and died after he was thrown from the vehicle. One deer, two people dead.

出典:TIME 2013年12月9日号 pp. 38-39

毎年120万件以上にのぼるシカとの衝突事故でヒトが200人ほど死ぬ――アメリカの自然界のスケールを感じさせる数字。

一口に並列と言っても特定の構造パターンを備えた並列構文もあり、並列なる「技法の文法超越」の超え方も様々――TMシステム並列強調構文(paratactic emphatic construction)と呼ぶ強調構文もあり、しかも4タイプ、英語の自然界のスケールを語る数字。

paragraph 最終文は parataxis、簡潔の極み One dear, two people dead ――超然として、並の英語力ではとうてい割り込めない並々ならぬ列ですよ。

[小問8]
two people deadのdead の文法機能は?

もしもあなたが英文法に滅法強いなんて英語教育界の絶滅危惧種のような方なら、とにかく以下3通りの構造展開(つまり変形)を考えてみるでしょうね。

3つのいずれでもないとなると、4度目の正直になるのは?

後置修飾(postpositional modification)ということになりますね。なら w. → x. の変形になりますね。

  1. two dead people
  2. *two people dead

あるいは y. → x. の who are 省略変形になりますね。

  1. two people who were dead
  2. *two people dead

ですが形容詞の単独後置修飾は an heir apparent(法定推定相続人)や from time immemorial(大昔から)のような慣用表現を例外として、文法レベルでは非文法(x. は非文法)――技法レベルでは、例えば eternal life(とわの命)より life eternal のほうが平たく言えばカッコいい、格式ばって言えば格調が高いとなれば、カッコをかまう必要があるところではカッコをつけますね。文法をかまわずカッコをかまうと「技法の文法超越」――形容詞が単独で名詞を後ろから修飾、これはもっとも卑近な「技法の文法超越」。

[小問9]
以下の文を和訳しなさい。
  1. I found the toy safe then.

1文に2つの構造、2つの意味―― safe は形容詞(安全な)、名詞(金庫)、toy safe(おもちゃの金庫)は「貯金箱」。

もし形容詞が単独で名詞を後置修飾してもよいという文法ルールが存在すると、the toy safe は「その安全なおもちゃ」の意味にもなり、z.文は3通りにも構造解釈できることになります。「形容詞が名詞を前からでも後ろからでも自由に修飾できる」と「2通りに解釈できる」の ambivalence が prevalence になってしまいます。ですから英文法は形容詞の単独名詞後置修飾を容認しないのです。

ですが英語は「文法プラス技法」のことば――技法の領域では表現効果が著しく高まるという「格別」があれば「技法の文法超越」という「特別」もあり。

  1. One deer, two dead people.

上文のように「数詞(ふつう one)+ 名詞(ふつう1語)+ コンマ + 数詞(ふつう one か two)+ 名詞(ふつう1語か形容詞 + 名詞で2語)」は並列の1つの型、例えば以下の北京オリンピックのスローガン。

One world, one dream. (1つの世界、1つの夢)

ちなみに One country, two systems.(一国家、二体制)も中国―― One country, two political systems. とも言いますが、共産党一党支配の mainland China と民主主義の Hong Kong で two systems。

[小問10]
以下の2文では何が違う?
  1. One deer, two dead people.
  2. One deer, two people dead. (原文)

もちろん表現力が違う、表現のインパクトが違う―― dead の後置修飾でくっきりコントラストする deer と dead ―― One deer(2語)、two people dead(3語)、わずか5語の並列構文の中で3つの共通点で強くコントラストする2語 deer と dead を活用しない手はない、その手法が dead の後置修飾。

deer と dead の共通点:
  • 頭韻:語頭[d]。
  • つづり:語頭「de」。
  • 文字数:4字。

ライティングでは視覚効果もモノを言う――語頭は語尾より目立つ、故にライティングでは語頭の韻「頭韻(alliteration)」が語尾の韻「脚韻(rhyme)」よりモノを言うことも頭に入れておきましょう。

英語の自然界をバードウォッチャーの双眼鏡のように文法と技法の双眼で観察していると、文法の上をはばたいている「技法の文法超越」を見つけることもありますね。さらにそれが「表現形式」という種であることを突きとめることにもなります。

以下の表現形式は後置修飾で「技法の文法超越」。

特に

例えば、

  1. all things Salinger
    (サリンジャー百科)

ac. は ad. の前置詞 about を蹴落とした表現上の quantum leap「技法の文法超越」。

  1. all things about Salinger

「all things + 人名」と言っても、この人名は1語、ae. は変。

  1. ?all things J. D. Salinger

なぜ変かと言えば一体感が弱くなって「変だと感じるから」――この感じは表現感覚。

all のないただの things Salinger はただの非文法。

  1. *things Salinger

all things Salinger の all が抜け落ちると語句のバランスが崩れて文法超越は無理と感じるのは構造感覚。

技法の根本:
  • 表現感覚
  • 構造感覚

表現感覚とは表現の表情を感じとり、読み取る能力であり、構造感覚とは表現の重い·軽いの重量感覚、簡潔·冗長の締り感覚、語句の釣り合いや配列のバランス感覚、文体裁を整える構成感覚のことです。

all things Salinger の Salinger は「サリンジャーの」「サリンジャーに関する」の意味の形容詞として機能していることになりますが、固有名詞が動く、例えば Google(グーグル)が動詞「グーグルで検索する」のように足を出すのはまああること。ですが、人名で動詞、その名の主が日本人とくりゃ、こりゃ珍しい、ほんに珍しい。

And a quirky, almost mystical book by 30-year-old Japanese “cleaning consultant” Marie Kondo called The Life-Changing Magic of Tidying Up has been an unlikely New York Times best seller since February. Kondo's simple philosophy—more self-help than home improvement—urges readers to keep only the things that spark joy while throwing out the rest. If retail-therapy joy lasts a moment, Kondo's is meant to last a lifetime. Her name has even become a verb: to Kondo your sock drawer.

出典:TIME 2015年5月23日号 p. 32

Her name has even become a verb: to Kondo your sock drawer.(「靴下の引き出しを Kondo する」のように彼女の名は動詞にさえなっている)―― Kondo さんはアメリカに手を広げただけでなく、動詞 Kondo で足も出た!

[小問11]
Kondo(近藤)が英語の動詞になれた理由を2つ挙げなさい。

もちろん近藤麻理恵さんの著作がアメリカでベストセラーになったからですが、それは動詞 Kondo(近藤流に整理する)の起点、きっかけ。どうして動詞になれたのか? これは表現感覚、センスの問題です。

動詞 Kondo の表現感覚:
  • Kondo は condo(分譲アパート[いわゆるマンション]: condominium の短縮形)と同音、Kondo はネイティブに親しみのわく音。
  • Kondo の語尾「-do」は動詞 do と同スペル、Kon-do の do 感覚。

実は私の personal name 緯己(いき)も英語音があり、形容詞icky[iki]なんですが、その意味が「べとべとした」とか「甘ったるい」ではがっかりしますね。

動詞 Kondo がいつしか kondo になり、This sock drawer needs kondoing.(この靴下の引き出し、コンドウしないと)なんてことになるんでしょうかね。

[小問12]
以下の文の too many elderly は「技法の文法超越」か?

That would leave the People's Republic with a distorted population: too few youths, too few women and too many elderly. (その結果、中国は偏った人口を、少なすぎる若者、少なすぎる女性、そして多すぎる年寄を抱えることになるだろう。)

出典:TIME 2013年12月2日号 p.20

「技法の文法超越」か? と問うからには、まず第一にこの英文が「技」のある英語である必要がありますね。技法レベルと文法レベルではどこが違うのか、まず比較、確認しておきましょう。

文法レベルの英語:
  1. That would leave China with too few youths, too few women and too many elderly people.
技法レベルの英語:
  1. That would leave the People's Republic with a distorted population: too few youths, too few women and too many elderly. (原文).
文法レベル:意味のみ。
1語:China
3語:too few youths
3語:too few women
4語:too many elderly people
技法レベル:意味プラス表現効果(各3語のコントラスト)。
3語:the People's Republic
3語:too few youths
3語:too few women
3語:too many elderly

この文は中国の一人っ子政策(one-child policy)がテーマの特集記事(cover story)のテーマ文(thesis statement)、記事のサブタイトルをテーマ文にするのが常套ながら、この特集記事ではこの文がテーマ文―― the People's Republic's distorted population が China の将来にどんなインパクトを与えうるのか、

と記事を追って展開する趣向、ですからテーマ文自体もできるだけインパクトのある表現にしたいところ。

文法レベルの英作から技法レベルの英文ライティングへ:
  1. That would leave China with too few youths, too few women and too many elderly people.
  2. That would leave China with too few youths, too few women and too many elderly.
  3. That would leave the People's Republic with too few youths, too few women and too many elderly.
  4. That would leave the People's Republic with a distorted population: too few youths, too few women and too many elderly. (原文)
ag. → ai.:
too many elderly people → too many elderly で各3語の too few youths、too few women、too many elderly になり、各3語のコントラストと結束が強まり、この語群(前置詞withの目的語)全体が際立つ。また3語3様の複数形 youths(-s)、women(woman→women変則)、elderly(単複同形)が個性的表情を与え、この語群をさらに活性化。
ai. → aj.:
1語 China を3語 the People's Republic に代えることで各3語の too few youths、too few women、too many elderly とコントラストするだけでなく、「人(People's)」と「人(youths、women、elderly)」が呼応。
aj. → ah.:
文末は位置的に強調されるポジション―― with の目的語に a distorted population を立てると、コロン(:)に区切られた文末の末 too few youths, too few women and too many elderly(a distorted population の同格語)はぐんと際立ち強調される。

「文法レベル」とは「意味」が正確に伝達できればよいレベル――文法レベルでは China も the People's Republic も同じ、文法レベルでは too many elderly people を too many elderly に代えても何も変わらない、the People's Republic を活用し、名詞 elderly を活用するのは技法レベル。

too many elderly も既出の too many deer の deer も単複同形ですが、ひとつ違う点は deer(one deer、two deer)や sheep(one sheep、two sheep)のような単複同形名詞は古英語(Old English: 700~1100年)の中性名詞起源である一方、単複同形名詞 elderly はちょうど半世紀前の1965年生まれ、ちなみに形容詞 elderly が世にでたのは1611年。

too many elderly は「技法の文法超越」か?――1965年の時点ではもちろん「技法の文法超越」、形容詞 elderly を名詞として使っただけでなく、単複同形名詞として使った、形容詞 elderly 誕生後350余年の大胆な「技法の文法超越」、too many elderly のように複数形 elderly が格別な表現効果を発揮したのでしょう。実は形容詞 poor も the world's poor(世の貧しい人々)のように複数形の名詞として使うこともあるのですが、2015年の現時点では too many poor は much too ungrammatical。

[小問13]
以下の文を和訳しなさい。
  1. We have strived to do more meaningful things with the resources we have.

これは文法問題ですが、問題なのは、

となり more meaningful things は2通りの解釈が可能で文意が1つに定まらないこと。

many → more なら、ak. → al. で文意は定か。

  1. We have strived to do more of meaningful things with the resources we have.
    (もてる資力で有意義なことをもっとやろうと頑張ってきた。)

meaningful → more meaningful なら、ak. → am. で文意は定か。

  1. We have strived to do things that are more meaningful with the resources we have..
    (もてる資力でより有意義なことをやろうと頑張ってきた。)

ak. → al.、ak. → am. は文法レベルの展開で、技法レベルの展開ではありませんよ。念のため。

しかし am. の that are 省略の am. → am1.、that are more meaningful 外置(extraposition)の am. → am2. の変形展開は技法レベルですよ。

ところで strive の過去分詞形は striven、strived の両形があり、どちらにするかは好みの問題ですが、「好み」は文法色より技法色。

too many elderly の elderly は形容詞 elderly がそのまま名詞になったものですが、エルビス・プレスリーの大ヒット曲 Love Me Tender の tender のように形は形容詞で中身は副詞(tenderly: 優しく)という場合もありますね。tenderly → tender(副詞)は lyrics(歌詞)の中の lyricism(強い感情表現)。

[小問14]
以下の3語句を吟味しなさい。
  1. do different
  2. do great
  3. do mean

「do + 形容詞」に見えますが、different は副詞で「違うようにやる」、なら副詞 differently とどこが different? do different = do differently で意味的にはどこも違わない、違うのは表情、これは表現感覚の問題。「違うようにやる」なら do differently も違うようにやって do different ――なんて言うのは冗談。

「do + 形容詞」に見えますが、great、mean は do の目的語、つまりこの great、mean は名詞、つまり do great = do what is great(りっぱなことをする)、do mean = do what is mean(卑劣なことをする)。do dirty(汚いことをする)という表現もあり、「do + 特定の形容詞形の名詞」も「技法の文法超越」の1タイプと言えますが、この種の品詞越えは比較的容易な「技法の文法超越」。

さて慣用表現の Long time, no see.(お久しぶり)の名詞 see とか、(as) sure as eggs is eggs(間違いなく)の「is」なんてものは「文法超越」というより「非文法超越」というところ。

さて Long time, no see. は並列構造、ここで再び並列の話に戻りましょう。

英語に強調構文はいくつ? 高校で強調構文と呼ぶものが1つ、大学で擬似分裂文と呼ぶものが1つ、計2つ――「英語の文法と技法の全容を実際的に深く、深く実際的に教えきる」TMシステムでは実に40以上、その中にTMシステムで「並列強調構文」と呼ぶものもあり、諺に一例を拾うと、

  1. Love me, love my dog.
    (ことわざ:人を愛さば飼い犬までも)

命令文を2つ並べたような形態――愛憎の違いはあっても、同趣意の「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」を並列強調構文で英訳すると、

  1. Hate a priest, hate his surplice.

この表現形式、見覚えがある、という方も少なくないのでは。

  1. Have a break, have a Kit Kat.
    (Kit Kat のスローガン:休憩するなら、Kit Kat を食べる。)

表現インパクトの強い並列強調構文をスローガンに使わない手はありませんね。

英語、ことわざ10選-4」は at. の諺がテーマ、その結びは諺級の並列強調構文で締め括りました。

  1. A friend in need is a friend indeed.
    (ことわざ:まさかの時の友が真の友。)
  2. Be a friend in need, see a friend when in need.
    (私の作:まさかの時の友たらば、まさかの時に友を見る。)

さてさて、government of the people, by the people, for the people も One deer, two people dead. も並列構造のすばらしい表現ですが、名言は名文に見合った内容の重みも必要、見事な英語表現ながら「シカ1ぴき、ヒト2人死亡」では後世に伝わりようがありませんね。ですが私は1ぴきのシカと2人のヒトの死をむだにはしませんよ。

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どだい、土台が違う

木造平屋建ての土台でビルは建てられない。3階ビルの土台に30階高層ビルは建たない。英語ができるといっても、いわば平屋の英語力と、いわば高層ビルの英語力の違いがある。

どこまで英語力を伸ばせるか。
どこまで実力が積み上がるか、
それは、土台で決まる。

世に、ネイティブ級ライティング力の超高層英語力を
現実に実現できる英語教育は、TMシステムあるのみ。

TMシステム
(The Thorough Mastering System)
英語の文法と技法の全容を実際的に深く、
深く実際的に教えきる初の英語習熟教育。

重たい英語学習を避けるなら、
どこまでも、どこまでも、どこまでも
軽い英語力でいくしかない。
深い英語学習を避けるなら、
いつまでも、いつまでも、いつまでも
理解の大不足のままでいるしかない。